美容と鉄分の関係。シミ取りレーザーや光治療とビタミンCやトラネキサム酸内服で満足していませんか?〈医師監修〉
- 2022.9.30
美容と鉄分は関係していた!
鉄分と聞くと、貧血予防のためにしっかり摂取しなければダメですよといった話になりがちですが、今回は、鉄分は美容にも非常に大切であることもあわせてお伝えします。
鉄分不足=貧血とぐらいしか考えていなかった方はとても参考になると思いますので是非最後まで読んでください。
目次
体内の鉄分
人の体内の鉄分は3~5g程度あるとされています。そのうち65%が赤血球中のヘモグロビンにあります。(残りは、肝臓や脾臓や筋肉に貯えられています。)赤血球の寿命は約120日です。
赤血球が破壊されたら鉄はどうなるかというと、古い赤血球の鉄は新たな赤血球のために再利用されます。
体から失われる鉄分は、胃や腸などの消化管や汗、皮膚から1日1~2㎎失われますが、食事でも1日に1~2㎎吸収されるので、通常は鉄不足に陥ることはないとされています。
(ちなみに鉄の吸収率は、ヘム鉄で10~20%程度、非ヘム鉄の場合、2~5%とされています。)
しかし、これは、あくまで理想的なバランスが保たれた状態ですので、実際は、通常状態でないことが多々あり、鉄不足でいろいろな問題が起こってしまうのです。
鉄分の種類
ヘム鉄と非ヘム鉄があります。肉や魚などの動物性食品に含まれるものがヘム鉄で、野菜や穀類などの植物性食品に含まれるものが、非ヘム鉄です。ヘム鉄はそのまま吸収されるため吸収率が高く、非ヘム鉄は、一度変化してから吸収されるため吸収率が低いです。
鉄分の行方
摂取された鉄分のうち、ヘム鉄はそのまま十二指腸から空腸上部で吸収されます。非ヘム鉄は、還元された後、吸収されます。吸収された鉄分は、トランスフェリンとなり、血流に乗って必要な臓器に運ばれます。骨髄に運ばれた鉄は、赤血球の成分であるヘモグロビンとなります。筋肉ではミオグロビンの成分になります。また余った鉄は、肝臓、脾臓、骨髄などにフェリチンなどになって貯蔵されます。貯蔵された鉄は必要な時に動員されます。
なぜ鉄不足になってしまうのか?
摂取不足
鉄が含まれた食品を摂取していない場合や何らかの吸収障害がある場合など。ダイエットで偏った食事をしていても鉄分が不足します。
鉄が必要な時期
思春期や妊娠期間中は鉄需要が増えます。その分摂取していないと鉄不足になります。
鉄が喪失する場合
女性の場合、月経が大きな原因になります。その他、胃癌や消化管に悪性腫瘍(癌)などがあると、癌から出血し、知らぬ間にかなりの貧血になっている場合があります。胃潰瘍や十二指腸潰瘍でも出血し、鉄が失われることになります。子宮筋腫などによる月経過多が原因になる場合もありますので、月経血が多い場合は婦人科受診もおすすめします。
女性は1回の月経で30mgの鉄が失われます。すると、単純計算では1日の鉄吸収量の1~2㎎のうちの大半が月経によって失われることになります。
日本人は鉄分が不足している
日本人の女性は必要な摂取量の6割ほどの鉄分しか摂取していないというデータがあります。女性全体の40%、そのなかでも月経のある20代から40代の女性では、約65%が貧血の状態といわれています。日本人女性の10人に1人は貧血があるのではないかと推計されています。
1日の鉄分摂取基準量
1日に必要な鉄分の推奨量は、30~69歳の女性では月経なしの場合6.0~6.5㎎、70歳以上の女性で6.0㎎です。30~69歳の男性では7.5㎎、75歳以上の男性で7.0㎎です。食事摂取基準の上限量は、女性では18歳以上でおおよそ40㎎、男性では18歳以上でおおよそ50㎎と設定されています。
上の表は、食事摂取基準です。
下の表は、令和元年の国民健康・栄養調査結果の概要からの抜粋です。
女性のところを見比べてみると、摂取量が少ないことが分かります。
鉄分不足の症状(美容以外)
鉄欠乏性貧血
鉄分が不足すると鉄欠乏性貧血になります。貧血になるとからだが重い、息がきれる、顔色が悪い、疲れやすいと感じるようになります。また体の隅々まで酸素が届きにくくなり、意欲の低下や頭痛が生じる場合もあります。貧血がひどくなると、めまいが生じる場合もあります。また特異的な症状として異食症があります。氷ばかり食べたくなるなどの症状が出ます。
精神症状が出る
うつになりやすくなると言われています。妊娠・出産には、鉄が必要とされることから、出産後に産後うつの原因になる場合もあると言われています。
骨折しやすくなる。
貧血の患者様は、カルシウム摂取量が適正であっても骨粗しょう症になりやすいというデータがあります。骨がもろくなるので、骨折しやすくなるのです。
風邪を引きやすくなる。
白血球の働きが悪くなり、免疫力が落ちます。
(子供の場合)精神発達障害を生じる場合があります。
鉄分不足により発語などの発達が遅れる場合があります。
鉄分不足の症状(美容)
顔色全体が悪くなる
血色がいいということは、血液の色がはっきりしていることなので、鉄不足で貧血状態であれば青白く不健康な見た目になります。
しわが増える、皮膚がたるむ
皮膚の中のコラーゲン産生には鉄が必要になります。コラーゲンがうまく合成できないと、皮膚を固定できず、しわやたるみを生じることになります。
シミができる
鉄欠乏性貧血になれば、酸素をお肌に送り込むことができず、皮膚のターンオーバーが乱れることで、古い皮膚が排出されなくなりシミができやすくなります。
毛髪が減る
毛根に十分な酸素を送れなければ毛根の元気がなくなり、毛が細くなったり、抜け落ちてしまうのです。
爪が変形する。
これは有名な症状ですが、スプーンネイルと呼ばれ、爪の中央が凹に反ってしまいます。
鉄分を多くとりすぎると
通常の食事だけでは過剰になることはまずありません。なぜなら鉄分が過剰になると、鉄の吸収率も悪くなるからです。鉄製剤やサプリメントを摂取する場合、内服後、胃が気持ちが悪くなる方もいらっしゃいます。便秘の症状が出る場合もあります。
過剰状態が続くと、鉄沈着症(ヘモジデローシス、ヘモクロマトーシスなど)になる場合もあります。最悪の場合、肝硬変のような症状が出る場合もあります。
したがって、普段からしっかり鉄摂取を意識したバランスの良い食事をすることがベストです。
注意点として、C型肝炎の患者様は鉄を多く摂取しないでください。肝炎の重症化や肝臓癌のリスクを高めると言われているからです。
鉄分を多く含む食品
肉類、魚介類、藻類、野菜類、豆類に多く含まれています。鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄があります。レバー、魚介類などに多く含まれます。一方、非ヘム鉄は、のりなどの海藻類などに多く含まれます。因みに動物性蛋白質やビタミンCと同時に摂取すると吸収率が良くなると言われています。お茶に含まれるタンニンや、ホウレンソウの中のシュウ酸は吸収率を悪くします
シミ治療には鉄分が必要な理由
シミがなぜできるか?を考えるとなぜ鉄が必要かということが分かります。
人間の体の中では、喫煙や、大気汚染、過度な飲酒、日焼け(紫外線)、ストレスに曝露されると活性酸素が発生します。
我々の住む世界の空気中には、20%の酸素があります。
基本的に人間を含む動物は酸素を利用して生命を維持しています。体内に取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化します。活性酸素は細胞伝達物質や免疫などの役割をすることはありますが、代謝過程でいろいろな成分と反応し、細胞傷害を生じ、癌や、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の一因にもなります。そして、活性酸素はメラノサイトを刺激してメラニン産生を促し、シミを作ることになります。では、活性酸素が減ればいいのではないかと考えますが、その通りです。活性酸素を消すもので有名なものでは、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール(アントシアニンやイソフラボンやセサミノールなど)、カロテノイド(βカロテンやリコピン、アスタキサンチンなど)です。これらは、食品などから摂取できるものです。
その他に体内で活性酸素を消す物質を合成しています。その代表がカタラーゼという酵素です。カタラーゼは、活性酸素の代表である過酸化水素を消してくれるのです。
このカタラーゼは、毎秒何百万個の過酸化水素を分解しています。この早い反応を鉄イオンの力を借りて行っているのです。(専門的な話にはなりますが、カタラーゼ分子のサブユニットの中心に鉄イオンが入っているのです。)
鉄不足の場合はこのカタラーゼが十分産生することができず、過酸化水素を分解できず、このことがシミの原因になってしまうわけです。最近、シミができやすくなった場合、鉄欠乏がひとつの原因の可能性もあるので病院で相談するのも良いでしょう。
鉄分不足を病院でチェック
血液検査
鉄(Fe)、フェリチン、ヘモグロビン(Hb)値、MCV(赤血球の大きさの指標)、UIBC値などから鉄が欠乏しているかが分かります。
鉄欠乏の原因検索
―摂取不良(過度なダイエット、偏食など)⇒問診
―消化管出血(胃癌、大腸癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸ポリープなど)⇒胃カメラ、大腸カメラ
―婦人科疾患(子宮筋腫、子宮癌、月経過多症)⇒婦人科受診
―妊娠(もともと妊娠すると、貧血傾向になりますが、胎児がいることで鉄需要も増します。)
⇒産科受診
どうすれば鉄分不足を解消できるか
原因の治療
原因が分かればそれに応じて治療しなければ、貧血(鉄不足)は解消しません。
例)胃潰瘍があれば、胃酸を少なくする内服薬を飲む、ピロリ菌を除菌するなど。
鉄補充
基本的に鉄の補充は経口で行います。点滴や注射での鉄補充は過剰症を引き起こす可能性がありあまり推奨できません。鉄剤といえば、フェロミアが有名ですが、おすすめはフェログラデュメットです。フェロミアより血中濃度の上りが緩やかで、内服後の気持ち悪さ(悪心、嘔吐)が軽減されます。鉄材内服を開始してもすぐに貧血が治るわけではありません。2週間後ぐらいに徐々に上昇していく方が多いです。1ヶ月~2ヶ月程度でほぼ正常範囲になります。
まとめ
鉄分が不足すると、様々な体の不調をきたすことになります。今回は、美容に関する鉄不足の弊害を記述しました。せっかくシミの治療をしていても鉄が不足していると治りにくいのです。
貧血だけではなく、美容にも関係しているということを意識して頂ければと思います。